円滑な会社売却のための「磨き上げ」
昨今の事業承継は後継者不在などを反映して、親族内・企業内承継からM&Aが中心になりつつあります。M&Aの場合、売り手が買い手に対していかに良い条件を提示できるかが決め手となります。そこで重要となるのが「磨き上げ」の作業です。 磨き上げとは、会社の現状をさまざまな観点から調査・把握したうえで、組織・事業などに関わる不備を是正し会社の強みを明確にすることにより、会社をより良い状態に仕上げることをいいます。 磨き上げを行うことで、より良い買い手が見つかる可能性や、売却する価格が上がる可能性があります。ポイントは「ガバナンスの構築」と「会社の強みを作る」ことです。
【磨き上げのポイント】
1:ガバナンスの構築(会社の情報を整理する作業)
1つ目のポイントはM&Aを実行可能にするための磨き上げです。株式の権利関係などの確認・整理、事業の中核をなす重要な契約や主要な取引関係の安定性確保、決算書など財務資料の適正化、コンプライアンス事項の充足など、買い手側が「買収できない」と判断せざるを得ないような状況を回避するために磨き上げを行います。
①法務からの視点
・株主は適法に株式を取得しているか?
・会社として成立させるための決議や登記手続き、諸規則・規定の整備、許認可の届出などの事項が有効に守られているか?
・重大な法令遵守違反がないか?
・主要な取引先との契約が実態に即して締結されているか?
・重要な資産や技術の使用が法的に有効な状態になっているか?
②財務・税務からの視点
・不適切な会計処理や税務処理はないか?
・簿外債務はないか?
・訴訟など偶発債務の恐れはないか?
・不当な値引きや過剰仕入れなど、不適切取引や不利益取引はないか?
③組織・人事・労務からの視点
・不当な労働環境で勤務させていないか?
・離職率が非常に高い状態となっていないか?
・未払い残業代はないか?
これらの項目に該当がある場合は、会社売却のプロセスに入ることが出来ません。何かしらの問題があれば、一つひとつ修正していく必要があります。
2:会社の強みを作る(より高く売れる会社にするための作業)
もう1つは買い手側からより良い買収条件を引き出すための磨き上げです。販売・仕入条件見直しによる損益の改善、遊休資産売却など財務内容の改善、財務諸表に表れない売り手の財産(大手企業との取引口座や顧客名簿など)や強みの顕在化などがこれに該当します。これらはいずれも売り手の企業価値の向上につながります。
①財務上の磨き上げのポイント
磨き上げの主要な対象の1つとして、財務関連の磨き上げがあります。また、主要取引先の分析や事業計画の策定、予実管理など計数を利用した磨き上げがあります。その他、取引契約の整備、月次決算の導入、各種経営管理指標のデータ化、社内規定の整備、内部統制の充実なども加点要素となります。 その中でも顧客や仕入先との契約書の整備、取引条件の改善や明確化、月次決算の早期化は必須事項です。
②実務上の磨き上げのポイント
会社の価値は、財務諸表に数字として記載される価値ばかりではありません。自社の経営戦略や事業計画を実現するためには、現状の経営環境をできる限り客観的に理解し、説明できるように見える化しておくことが重要です。売り手側が顧客・取引先・研究開発などの分野で自社の強みと弱みを明確にしておくことで、買い手側は強みの増強や弱みの補強を考えやすくなるため非常に有益です。
専門家に相談を
会社売却を行うためには、できるだけ早くから準備に取り組み、適切なタイミングで交渉に入れるようにすることが大切です。少なくとも1年前から余裕を持って磨き上げの作業をすることが必要です。多くの場合、磨き上げの課題を発見するのは容易ではありません。 磨き上げを実際に行うには、外部の専門家に協力してもらうことが一般的です。 事業承継、M&A、磨き上げをはじめ、経営に関することでお悩みの方はお問合せフォームからご連絡下さい。